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日本のDXへの障壁は「心」かもしれない。トレードシフトジャパン代表取締役・菊池孝明氏インタビュー。

「世界幸福度ランキング」。2019年2位だったのがデンマークだったことをご存知だろうか。(ちなみに日本は58位)もちろん、国の規模も環境も違うので、一概に比較はできないがこの結果の一旦を担うのが、デジタル化ではないかと考える。ちなみに、国連が発表した世界の電子政府ランキングでは1位を記録している。2001年のデジタル署名に始まり、あらゆるインフラにデジタルを導入。行政デジタル化を世界に先駆けて推進している。このことが、幸福度に貢献していると考えるのは自然ではないだろうか?

このデンマークで生まれた「トレードシフト」は、今や世界で150万社が参加している、世界最大規模の企業間取引ネットワーク。2014年に日本でも展開。同社の代表取締役 菊池孝明氏に、日本でのDX進捗について聞いてみた。

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プロフィール:菊池孝明
ハイテク・半導体企業におけるグローバルサプライチェーンのコンサルティングやIT導入に携わり20年以上。短期間のコンサルティングから多国籍メンバー100名以上の大規模プロジェクトの責任者など幅広く経験。国内大手通信会社、外資系パッケージベンダーを経て、トレードシフト日本法人立ち上げに参画。近年は温暖化ガス削減のNPO活動に参加するほか、デジタル変革に関する記事執筆や講演を多数行う。趣味は旅行、ツーリング。トレードシフトジャパン 代表取締役社長、経営学修士(MBA)

国家政策からスピンアウトしたインフラ構築からスタート。

-トレードシフトって、どんな会社なんですか?

菊池:私たちは、デジタル to デジタル、完全オンライン上で請求書のやりとりができるシステムを運営しています。もともと2005年にデンマークでスタートした会社で、2014に日本でも本格的にビジネス展開を始めました。

-具体的にはどういった請求システムなんですか?

菊池:まずは、ある企業がトレードシフトのシステムを使って、請求書を発行するとします。お取引先企業にも私たちのシステムを導入していただくんですね。そうすることで、ペーパーレスで請求書の印刷・郵送などの手間が大幅に省け、業務効率化を実現できます

-お取引先企業にもシステムを導入いただくんですね。

菊池:そうですそうです。なので、お取引先にもご理解いただいて、導入いただきやすくすることが必須なんです。なので、私たちの請求書発行システムは、基本的に無料で導入いただけるようにしています。

-え?無料??どうやってマネタイズされているんですか?

菊池:それも皆様に聞かれます(笑)実は、利用していただいている企業様の9割以上がアプリを導入していない、すなわち無料で使われているんですよ。弊社のビジネスモデルは、よく「LINE」に似ていると言われたりします。どういうことかというと、基本的なシステムにプラスして、とてもたくさんの機能拡張できるアプリを販売しているので、そちらの手数料・使用料でマネタイズしているんです。

-アプリの売り上げだけでマネタイズするのは、すごいですね。元々、デンマークではどのようにスタートされたんですか?

菊池:そもそもデンマークでは行政のデジタル化が2000年代前半から社会実装されました。その中で、ペポル=汎ヨーロッパ調達ネットワークのプロジェクトに関わったメンバー3人が、ペポルの基本思想をベースに民間企業として設立したのがトレードシフトです。

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-元々、政府としてインフラを担当されていたんですね。

菊池:そうなんです。官公庁の効率化だけでなく、民間企業が参加しなければDXの意味がないということに気がついて、独立しました。だから、実は初期の私たちには収益モデルが存在しなかったんです(笑)マネタイズは後から考えるという無計画な状況で始めたそうです(笑)

-それで納得いきました。デンマークの95%もの企業がつながるのも、そもそもインフラとして開発された経緯があったんですね。

日本での展開、その最大の障壁とは。

-そんなトレードシフトですが、2014年から日本でも本格展開を始めました。

菊池:日本は、世界的に見てもGDP第3位の経済圏です。欧米を中心にで普及してきたタイミングで、視野に入れたというのは当然なんです。グローバル展開の一環として、日本と中国をほぼ同時にスタートしました。

-トレードシフトの場合、元々のシステムが海外も含めた企業間取引に対応していたのも大きかったですか?

菊池:もちろんそれもあります。先行して導入いただいていた、欧米の企業様のお取引先として、日本企業の導入が増えていたといました。なので、私たちの当初のミッションは、そういう企業様のサポート業務を主としていました。

-日本に展開するにあたって、何か障壁はありましたか?

菊池:「紙」ですね。

ー紙?

菊池:そうなんですよ。私たちにとっては、競合と言われるITベンダーよりも「紙」が何より強い競合なんです。紙幣の普及率などにも顕著ですが、日本人ってすごく紙が好きなんですよね。例えばハンコ、印鑑なども捺印した時の感覚みたいなものをすごく大事にする国民性なんです。

-確かに、ハンコをおすときに、何か思いを込めたりしますよね。

菊池:そうなんですよね。何かに触れること…触覚をすごく大事にするんです。それは、裏を返せば非常に感性が豊かとも言えるんですが、その感性みたいなものが私たちのようなプラットフォームを展開する時の障壁といえるかもしれません。

-世界から見ると、日本の電子化、どう捉えてらっしゃいますか?

菊池:もちろん多様なカルチャーがあるので、一概には言えませんが「大きなものにまかれる」という文化が強く、思ったほど進んでいないと思います。電子化についても「言ってくれたら、やります。」という、ちょっと待ちの姿勢の企業や人が多いのかなと感じますね。欧米だと「私がやる!」と手を挙げる人が多いように思うんですが、日本ではそれが総じて少ない。

-ある程度、外圧というか外から「やりましょう」と言わないと動かないのは、歴史的にみてもそうなのかもしれないですね。

菊池:ただ、日本のいいところは、いざ決定してからのスピードはすごいんですよね。すごく早く動いて変化できる。そこは、素直にすごいなと思います。

-北米でも展開されていると思うのですが、その辺の違いは顕著ですか?

菊池:北米はまた全然違うんですよ。もともと広く使われていたシステムもありますし、私たちもきちんと地に足をつけて、穏やかに展開しています。

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電子帳簿保存法の改正、どう捉えるか。


-日本では2020年10月の電子帳簿保存法の改正をはじめ、2023年にはインボイス制度が始まりますが、どのように捉えてらっしゃいますか?

菊池:弊社はデジタル to デジタルの取引を推奨しているので、10月に始まった電子帳簿保存法の改正電子化・デジタル化を本気で考え、取り組むためのすごく良いきっかけだと思うんですよね。2023年のインボイス制度に向けても、色々と取り組まないとならない。私たちもインボイス審議会を作ったり、啓蒙活動をしていくためのきっかけとして位置付けています。少しずつ社会全体でも考えていかないと、本当にシステムに置いていかれますし、業務もどんどん大変になってしまうと思うんです。

-法律を含めた国家・社会全体でのデジタルシフトってなんとなく、国家インフラみたいに統一システムに収束するのでは?と思うのですが。

菊池:私はそうは捉えていないんです。デジタル化って幅が広がることなんですよね。できることや選択肢の幅が増える。

-もう少し詳しくお聞きできますか?

菊池:例えば、写真のことを考えてみてください。フィルムからデジタルに移行したことで、表現の幅は広がりましたよね?様々な加工もできるようになりました。カメラとレンズの多様性もなくなっていません。
これは、どこの業界でも同じだと思うんです。デジタルを導入することで、選択肢が増え、多様性につながる。大事なのって「統一規格」なんです。規格の統一がなによりも大事。この規格の部分がしっかりしていれば、インターフェースの選択肢は多い方がいいのではないかと考えています。

-あぁなるほど。選択肢のひとつとしてのトレードシフトのシステムなんですね。

菊池:その通りです。そうやっていくつかの選択肢があれば、お互いの競争の中でシステムもアップデートし続ける。ちなみに、現在ペーパーレスにきちんと対応した会社、国内のどれくらいの割合だと思いますか?

-30%くらいでしょうか?

菊池:実は、まだ10%くらいなんです。(2020年11月現在)

-そんなに少ないんですか!

菊池:驚きますよね。90%以上が紙ベースなんです。先ほど「紙」が何よりの競合と申し上げましたが、競合同士で争う土壌も整っていないような状態なんです。なので、多様性を生み出すためにも、今は友として、未来の敵として…(笑)協力しあい、切磋琢磨していくことが業界的にも非常に重要だと思うんですよね。

デジタルは、私たちの敵ではない。

-もうひとつ、DXの際に「私たちの仕事がなくなるのではないか?」と議論に登ることがありますが、いかがお考えですか?

菊池:日本は少子化の一途を辿っているので、これから働く人はどんどん少なくなってしまいますよね。ただ、経済上の命題としてGDPを上げなければならない。それを実現するには、色々なことを「省略」することが必要になってきますよね。

-省略して、必要なことだけを少人数で実現ということですね。

菊池:そうです。特に日本は「処理」を仕事と思っている人が多い。もしくは「処理」の多さで真の仕事をできていないと思っています。真の仕事とは、意思決定やクリエイティブ、何かを創り出すことだと思うんです。デジタルを社会実装することで、色々な「処理」を「省略」し、真の仕事に楽しんで立ち向かえる社会になると思うんです。そのためには、デジタルに支配されることなく、コントロールすることが何より大事です。

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-あぁ決して怯えたり争うものでなく、デジタルをツールとして便利に使うということですね。

菊池:えぇ。今、AIですとかDXを恐れるのはきっと仕事において「処理」の部分が多いからなのかもしれないですね。

DX社会実現のために私たちに必要なこと。

-最後の質問ですが、DX実現のために私たちが考えなければいけないこと・学ばなければいけないことはなんでしょうか?

菊池:楽しいことだけやりながら生きるにはどうするか?を考えることではないかと思います。つまらない、やりたくない仕事を少なくすためにデジタルをきちんと使えば、もっと自分の時間を充実させていけると思うんです。そして、個人のことだけでなく、みんなの幸せ、社会全体の幸せを同時に考えることが今世界に求められていると思いますよ。

Less/on.

これからのデジタル実装に置ける最大の障壁は、私たちの心の持ちようなのかもしれない。取材中、菊池氏が発する言葉の端々から見えるのは、「みんなで楽しいことをしたい」というポジティブで穏やかなトーン。日本ではまだまだ絵空事と思われてしまいがちな、DXで幸福を獲得しているデンマークのあり方と菊池氏の穏やかさは、無関係ではないと感じた。

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経理部門のDX・デジタルシフトを学ぶ無料イベント「Less/on.」開催!

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Less/on.でもインタビュー掲載した株式会社インフォマート執行役員
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(おわり)