DXが実現する「なめらかな社会」。もしくは、資本主義の変容。インフォマート 長尾代表× LayerX 福島代表
私たちの社会は、資本主義というインフラの上で互いを信頼し、発展を遂げてきた。それが今、デジタルの発展とともに変容してきているのではないかと感じる。テクノロジーを活用した業務プロセスのデジタル化を推進する LayerXの福島代表と、「デジタル化が一番難しい」と言われた飲食業界でユーザー層を拡大し続けてきたインフォマートの長尾代表。今、私たちの精神的なインフラでもある「資本主義」への信頼が揺らぐ中、私たちはこれから何を信頼し、どのような未来を描けば良いのか。デジタルによって、社会が劇的に進化することを「DX」と定義するなら、これから私たちはどのように未来を描くべきなのか。 デジタライゼーションにとどまらない、DXの本質についてお二方に対談していただいた。
プロフィール(写真左から)
長尾収:株式会社インフォマート代表取締役社長
1960年、徳島市の商家(セメント・建築材料卸)生まれ。三井物産にて20年間法務を担当の後、投資事業・M&A業務に従事(ベンチャー投資子会社社長、企業投資部長、米国三井物産上席副社長(業務本部長)等を務める)。2015年同社定年扱退職。1年間北海道で業務用イチゴ会社の顧問の後、高野山に登り2年間密教理論を学ぶ。2018年3月より現職。
福島良典:株式会社LayerX 代表取締役CEO
東京大学大学院工学系研究科卒。大学時代の専攻はコンピュータサイエンス、機械学習。 2012年大学院在学中に株式会社Gunosyを創業、代表取締役に就任し、創業よりおよそ2年半で東証マザーズに上場。後に東証一部に市場変更。 2018年にLayerXの代表取締役CEOに就任。 2012年度IPA未踏スーパークリエータ認定。2016年Forbes Asiaよりアジアを代表する「30歳未満」に選出。2017年言語処理学会で論文賞受賞(共著)。2019年6月、日本ブロックチェーン協会(JBA)理事に就任。
そもそもDXをどう捉えるか?
福島:先日もイベントにも登壇させていただきまして、ありがとうございました。
長尾:こちらこそありがとうございました。今日は私の方もお聞きしたいことが色々ありますので、どうぞよろしくお願いいたします。
-まずは、お二方にとって「DX」が何を指すのか認識のすり合わせをさせてください。
長尾:世間的にはDXという言葉は色々なレベル感で用いられていますからね。福島さんはどのように捉えていらっしゃいますか?
福島:デジタル化には3つのレベルがあると思うんですね。レベル1は「Zoomを導入した」というようなツール導入だと捉えています。これをDXと呼ぶ日本企業が多かったりするのですが、これはDXの手前の話でしかないと思っています。ここを認識することがすごく重要だと思います。
長尾:そうですね。現在の日本は、DXの準備段階でしかないですよね。
福島:そうですよね。レベル2は「業務をデジタル化する」ことです。ここがまさに今現在 LayerXやインフォマートが取り組んでいるところだと思います。「請求書をpdf化する」と捉える方も多いですが、アナログの変換でなく、クラウド上のデータで取引をすることで、業務そのものをデジタルシフトさせることがこのレベル2の段階と捉えています。これが、DXのはじまりと位置付けられるのではないかと。
-アナログの置き換えではなく、業務の中心をデジタルデータで行うイメージですね。
福島:デジタルデータを蓄積した先にレベル3「自動化」があると思います。ここまで来ると過去の承認記録を元に、システムが自動仕訳、送金できたりと言うことができるようになる。実はここまでは本来的な意味でのDXの準備でしかなく、いわゆる「デジタライゼーション」でしかないと思うんですね。レベル3までは基本的にはオフラインでもできることをデジタルに移行するということなんです。
-なるほど。
福島:ところがレベル3までしっかりと推進すると、企業間データをつなぐことになります。そうすると、企業単体ではなく産業全体をデジタルがつなぐ社会へとシフトする。これこそがDXの本来的な意味合いではないかと思います。
-産業をつなぐ?
福島:そうです。例えばCO2の削減ですとか、SDGsに代表される公共性の高い問題解決は一社だけでは立ち行きません。サプライチェーン全体でデータを管理する必要があります。産業全体でそういった社会課題を解決する。ここまでくると「DX」と呼べるのではないかと思いますね。
長尾:私も同じ認識ですね。当社の場合はBtoBが主戦場なので、当然企業の中というよりは企業と企業の間のデジタル化・トランスフォーメーションを推進しているわけですが、企業間をデータでつなぐうちに、まさに産業ですとか経済全般についての課題は少しずつ見えてきています。
-主としてレベル2を手がける会社ならではの視点ですね。
長尾:そうですね。当社がやっていることは、従来紙で行われていた受発注や請求業務の電子化というデジタライゼーションではありますが、私たちのビジネスモデルは「経営を変革する」ためのものだと捉えています。DXは業務の効率化もさることながら、本質的には経営の「高度化」に寄与するものだと思っています。結果的に本来人間にしかできないことだけにフォーカスできるようにすることがDXの本質だと思うんですよね。
福島:長尾さんのおっしゃられるようにDXは経営だとか社会といった、もっと大きな意味での変革だと思います。これをきちんと理解していないと、DXって上手くいきません。例えば、アナログ経済では「失敗を減らすのか、ミスを減らすのか」が重要な評価基準でしたが、デジタルはまるで逆。エラーが起きる前提でデジタルツールをいち早く導入して、どんどんテストすることこそ評価されるべきだと思うんですね。
長尾:そうですね。デジタルツールの導入の話に終始するのでなく、アナログ経済での評価基準から脱皮して、試行錯誤を根幹に据えた視点でもって、今までの経営の常識を変えることが大切になってきますよね。
福島:全ての企業が「売って終わり」ではなく、売った後もカイゼンを繰り返すというサービス企業化していると思います。企業のデジタルインフラを推進すると同時にデータドリブンで意思決定を促す企業の構造を作ることが望まれていると思うんですが、日本の経営層はツールを導入することをDXと捉えていたりする。
長尾:そこは大きな課題ですよね。それこそ、DXを経営の変革と捉えると人の採用の仕方にまで影響してきます。
福島:終身雇用制が機能していた時代も終わり、先ほどの評価基準にあった人材が必要ですよね。どんどんと会社を変えて、ノマド的に転職している人材の方が強い時代になっている。企業が本気でDXに取り組もうと思うのなら、そういう人材を確保する必要があります。ツールを導入するだけでなく、経営のダイナミズムにデジタルのDNAを組み込むというのが、DXに突きつけられていることかと思います。
長尾:それは根本的な指摘ですね。求められる人材まで変容するということになると、企業のDX指標の一つは「人」であるということにもなりますね。
福島:SaaSですとか、システム導入をDXの基準としているように思いますが、エンジニアをどれだけ採用できていますか?そして、それを会社の競争優位にきちんと組み込めていますか?というようなポイントこそが、DXの基準であるべきですよね。
長尾:DXを経営の変革と捉えるならば、日本には色々と克服しなければいけないチャレンジがたくさんありますね。先ほど福島さんがおっしゃったようにアナログ経済の感覚を抜け切らない経営層はまだまだ多く残っていると思います。
福島:エンジニア出身、もしくはエンジニアリングの素養がある経営層も少ないことも、DXの障壁のひとつですね。日本企業の経営構造上の問題ですが、ソフトウェアエンジニアの活躍する場がかなり偏っているんです。海外ですと、ユーザー企業でのエンジニア就労比率が高いのですが、日本の場合圧倒的にベンダー側にエンジニアが偏っているんですよね。この比率を逆転するだけでも、日本はかなり変わると思うんですよね。
長尾:確かにユーザー企業側での採用はもっと意識してほしいところですね。
福島:雇う側も雇われる側も「今までの常識に囚われて硬直しているだけ」というのが実情のように思うので、もう少しエンジニア人材の流動性を意識するべきですね。
DXはどのように社会を変容させるか。
-DX実現の果てに産業構造が変わることで、社会がどのように変容するとお考えですか?
福島:そうですね。ソフトウェアのレイヤーのお話をすると、ESGのようにひとつのルールの枠組みを決めてデジタル実装すれば、サスティナブルな社会にはある程度貢献できると思います。デジタルの世界だとルール設定に対する、自然な強制力を施行できるのはデジタルの1つの強みですね。
長尾:人間が介在しない分、ある種ドライにデータのみによって強制できますからね。
福島:その通りですね。現在ですと、COVID-19に対する各国の例が分かりやすいと思います。国家によっては、アプリケーションを通して位置情報からログを取り、ロックダウン下の外出を罰則化したりという取り組みもありました。是非はさておき、そういったルール内でのガバメントとデジタルは非常に相性がいいと思います。ただ、ここで問題なのはやはり「人」ということかと思います。
-「人」?
福島:デジタルの一番の敵はデジタル上での信用を壊す人や組織なんですよね。ちょっとした改ざんだとか、そういったフラウドリスクは、一部の人たちが生み出している構造になっていると思うんです。現状のデータを見ていてもそれは事実だと思います。虚偽のデータがひとつあるだけで、全体に反映されてしまうというのは、今非常に問題かと思います。こういう人たちは極めて一定のクラスタに集中していることもデータから見えてきた。これは、現状のDX推進に対する大きな問題の1つかなと思います。
長尾:どうやって不正を防ぐかということですね。デジタル化することで、変則的なものを検知しやすくなるという側面はないでしょうか。
福島:人間というのは、嘘をついてしまう生き物でもあると思います。なので、嘘をつかない・つけない基盤をデジタルで作るといいと思いますね。ただ、行き過ぎると監視社会にもなり得ますので、バランスは難しいですが。
-性善説・性悪説のような話にもなってきますね。
福島:アリババのトップ、ジャック・マーは、「デジタルを信用の軸にした社会と、アナログ信用の社会では100年以上の差がつく」というような発言をしていました。この様式に乗れる社会と乗れない社会でものすごい差がついてしまう。デジタルデータに嘘をつかないことに関しては個人レベルでも国家レベルでも意識的にアップデートする必要があると思いますね。資本主義の根本は「信用」です。今まさにそういう根本の部分がアップデートしているのではないかと思います。その根本の部分をデジタルにシフトできれば、より良い社会システムになる可能性を秘めているのではないかと思います。
信用と貨幣制度。
長尾:資本主義を支えているものとしてひとつ議論してみたいのが「貨幣」です。諸説ありますが、旧来の考え方では、「物々交換」の限界や制約を克服するために価値を抽象化する手段として貨幣がつくられたといった説明がなされていたわけですが、データの処理速度が増し、福島さんがおっしゃったようにデジタルによって信用度の高い基盤が成立すると、貨幣を媒介せずとも多数当事者間で直接の物々交換が成立するようになるとは考えられないでしょうか。
福島:面白いですね。貨幣というのは究極的には債権と債権情報の仕組みがあれば成立すると思っています。物質に対する債権情報が証明できるなら、それは「貨幣」として成立するかもしれませんね。
長尾:価値の量を計る単位は残るのでしょうが、物やサービスの取引と貨幣とが結び付く必然性はなくなるかもしれないと。
福島:貨幣というひとつのフォーマットに置き換える事で、物々交換的なものをなめらかにするために機能していたのがお金だった…と考えるとそれは可能性として充分あると思います。物に対して債権記録を付帯させれば、お金というフォーマットを通過しなくても取引ができるわけですからね。
長尾:そうなると、資本主義の根幹でもあるはずの貨幣の意味合いが変わってしまうかもしれません。取引関係が、トレーサビリティだとか普遍性が担保されるシステムの中で成立し記録されていくと、貨幣のもつ意味が二次的になって社会のあり方も変わってしまうのではないかと。中国がデジタルカレンシーとかで先行していますが、そういったことが視野に入っているのかなとも感じます。
福島:中国は、意識的だと思います。サプライチェーン上に流通する手形を誰でもシステム上で取引できるシステムはかなり初期段階で実装されました。日本でいうところのファクタリングとか銀行がやっている債権換金システムは、すでにデジタル化が完了していたと思います。手形というのは、通貨とほぼイコールですから。長尾社長のおっしゃるように、当然そのあたりのことは考えているでしょうね。
長尾:決済やファイナンス…おおよそ、貨幣に絡む全てのシステムも変容しうる。やはりDXは社会の大きな変革につながる可能性を秘めていますね。福島さんは、これがどれくらいのスピードで進むと思いますか?
福島:急激に進むと思っています。ただ、デジタルによって極小化できるとはいえ、「人が嘘をつくかどうか」という本質的な事業リスクは残ってしまうのではないかと考えています。
長尾:嘘、つまりフラウドのリスクを除去できないかは、当社でもすでに取組を始めていますね。例えばデジタル上で信用度を測定してファイナンスするようなシステム開発も意識している。その実現には、過去に信用できる取引をしてきたというデータが必要なんですね。そのためのデータを蓄積している段階です。
アルゴリズムフェアネスの実現。
長尾:中国では貨幣とかのシステムもそうですけど、個人レベルでの信用スコアリングもすでに発達してますよね。
福島:そうですね。ここで考えたいのは、アルゴリズムの問題かなと思っています。アルゴリズムの判断によってスコアリングするのが現状のシステムです。ただ、アルゴリズムは過去のデータの反映でしかないので、過去のデータバイアスの問題が起きてしまう。
-過去のデータバイアス?
福島:分かりやすく具体例を出すと、現在の日本では「女性の社会進出がしにくい」という問題があります。すると「社会に進出している割合が少ないため、リスクが高いので女性にお金を貸さないようにする」というデータが出てしまうことがある。現在の社会構造における歪んだデータがそのまま残ってしまうんです。これが良くないバイアスで、アルゴリズムフェアネスと呼ばれる問題になっていますね。
長尾:過去データが、問題点も含めてそのまま解析されるため起こってしまう大きな問題ですね。
福島:意図的でないにしろ、効率良くシステムを組もうと思うと、そういう変数が入ってしまう。過去の負の遺産が残り続けてしまう。私自身は、こういった不均衡が生まれる問題をなんとか解決したいと思っています。ですがこれは、すごく根深い問題ですね。システムだけで解決するのは難しい。ルール設定とアナログなフィールドでの解決も視野に入れないと補正できる問題ではないかなと感じていますね。
DXが明らかにする企業の本質。
長尾:DXが進んでいくと、究極的には様々なモノやサービスがある程度”勝手に”流通するような世界に向かっていくと思います。すでに発注予測や自動発注の研究・実装は進んでいますし、会計データとの突合から決済にも及んでいく。そういった仕組みが出来上がった先には「企業ってなんだっけ?」「よその企業との差ってなに?」「人間ってなにやるの?」という世界が来るように思います。
福島:資本主義が極限までいくとそういった世界になることも考えらえれます。これについては投資の世界から考えるといいかなと思うんですよ。未来の投資は基本的に産業全体や国家への投資というインデックス投資だけになる思うんです。ただ、色が付く部分は当然あると思っています。
-色がつく?
福島:単純に個人の好き嫌いや感情で判断できる部分…例えば「大豆が好きだから、大豆フードの会社を応援しよう」という個人のカラーを投影した投資は残ると言うことです。そういった自動化が進んだ社会では、「人間に効率を求めること自体がナンセンス」という基準になるのかなと思うんです、だからこそ「あなたは何が好き?何がしたい?」あるいは「どんな不確実性が欲しい?」という意思の選択だけをする社会になると思うんです。
-いわゆるビジネス的な意思決定ということでなくですか?
福島:えぇ。もっと個人的な話です。「私はこの野球チームが好き」とか「こんなアイドルが好き」というようなイメージですね。どんな環境や社会にしたいかということを考えることが重要になると思いますよ。そのためのコミュニティとして、企業が機能するのではないかと思います。企業は、個人の意思の選択肢のひとつでしかなくなります。企業をベースとした小さなコミュニティの集まりが、集合体になると、ひとつの効率化した産業・経済でしかないというような社会になるかなと思います。
長尾:今大きな問題になっていますけど、企業は利潤を最大化するのを至上目的としてきたわけですよね。そこに、人間の趣味趣向やロジックを超えたものが融合する。これは、SDGsやESGとかの課題解決へのヒントとも言えますね。
福島:そうですね。そういった未来への萌芽はすでにあると思っています。例えばGoogleの各種サービスは、すでに大多数の人にとってインフラとして機能している。しかも広告で利潤をあげているので、普通に使う分には無料で使っているわけです。では、Googleが失くなったときに皆さんの日常から削減できているコストや時間と、Googleが現状の売り上げってマッチしていない可能性ってないですか?
-確かに。当たり前に使っていますが、なくなったら本当に困ります。まさにお値段以上の企業ですよね。
福島:もっと分かりやすい結果があります。「LINEを使い続けるために、どれくらいの金額を払いますか?」というアンケートを実施したところ、結果をまとめると時価総額を超える金額になったという話があります。ここから見えるのは、企業価値を利潤で測るという基準は無くなりつつあるのかもしれないということです。社会的な効用というようなものがダイレクトに価値になる世界が来るかもしれない。
長尾:教科書的にいうと将来キャッシュフローを現在価値に引き直して時価総額が計算されるということなんでしょうけど、DXが進むと貨幣の役割が相対化されて取引から生じるキャッシュフローの意味づけが変わる。効率化は人間以外がやってくれるので、企業の価値は本来の人間の役割である判断基準のチョイスによって計られる。となると素敵な世界ですね。
福島:もちろん、価値をどのように交換可能にするかという問題はありますが、現在は直接課金もしくは、広告収益モデルになってしまうのは、もどかしくもあります。そういった社会的な効用が価値基準になる社会が訪れた際は、そもそも「マネタイズをどうするか」ということを考えなくてもいいのかもしれませんからね。
日本のDX進捗に向けて。
-DXによってかなり素敵な社会になるように思えますが、一方日本はDXに向けてどうすべきとお考えですか?
福島:不安な意見やニュースも多いですが、それほど不安がる必要もないと思うんですよね。現状、クラウド化によって、あらゆるサービスがすごく安価に試せるようになっています。GAFAというような巨大企業でさえ、同様のクラウドサービスを駆使しているわけです。デジタルを使うという意志決定すること、サービス購買の意志決定を硬直させないように頭を切り替えて、気軽にはじめることが大事かなと思います。
長尾:そうですね。日本は非常に様式にこだわる企業が多い。自社特有の仕事の進め方ですとか、ちょっとした文字づかいのルールですとか、そういう細やかな心遣いは美徳である面もあります。ですが、一度デジタル上の汎用性のあるルールに則って運用していただくと、その便利さや、これからの未来をきっと身近に感じていただけると思いますね。
福島:その通りですね。そういった一社だけの理念だけでなく、社会全体の利便を意識してほしいと思いますね。中にはSaaSの選定に半年かけるような企業もまだまだ多い(笑)。
長尾:(笑)。
福島:こんなにナンセンスなことはないと思いますよ。失敗したら、すぐに別のサービスに切り替えればいいだけなんですから。社会全体がデジタルのスピードとサイクルに慣れていくことが重要かなと。
長尾:そうですね。福島さんのおっしゃるレベル1の段階でもいいと思うんです。いわゆる業務効率化ツールを導入するだけでも、随分とデジタルの利便性を感じていただける。中には、いまでもPCの起動方法から説明しなければならないケースもあります。そういった企業をアップグレードして差しあげるのも弊社のミッションだと思っています。
-誰も残さず、きちんとデジタルで世界をつなげるようにしたいということですか?
長尾:そう願っています。まずはこのレベル1の状態を徹底して社会実装することで、レベル2以降=効率化につながり、その先にデータやシステムの連携をスムーズに進めていける世界が広がると思っています。スタートアップの軽やかな活躍を横目に、弊社は泥臭い部分をしっかりと支えていくことも役割だと思っています(笑)。
福島:(笑)。
長尾:それぞれの企業が独立性とユニークさを持ちながら、きれいな形で連携しあっている世界を作ることが重要ですから。私も経営する中で、未来に訪れるであろうそういう美しい世界の中で重要なひとつのパートを担う意識でいます。
福島:経営レベルでの連携とサービスレベルでの連携があると思います。サービス連携に対しては例え競合同士でもオープンであるべきですし、オープンなほうが強くなると思いますね。これからは、オープネスを持っている企業とそうでない企業で差が出てくると考えています。
長尾:産業全体が強くあるためにも必要な考え方ですね。私たちも積極的に色々な企業とのサービス連携していきたいと考えていますよ。
福島:弊社も、広い観点で経営を推進したいですね。システムとかデータを経済の中心に据えることで、企業間・経済の摩擦を減らして、世界を少しだけなめらかにできたらと思います。
DX社会実現のために私たちに必要なこと。
-最後の質問ですが、DX実現のために私たちが学ばなければいけないことはなんでしょうか?
福島:難しく考えすぎないことですね。日常でLINEってみなさん、普通に使ってますよね。日常生活では気軽にLINEを使っているのに、会社に入った途端にZoomとか新しいシステムを使うのにハードルを感じている方が多い。これ、おかしなことだと思うんですよ。もっと気軽に軽やかに道具として使えばいいと思うんですよね。LINE以降で、生活様式って少し変わりましたよね。スタンプで気軽にコミュニケーションできるようになりましたし。変革といっても、そういった緩やかで日常の地続きでしかないんです。
-そう考えるととても気が楽になりますね。
福島:あとは、平均点を取ろうということですね。DXというワード先行で、GAFAとか世界企業と比較すると、何から手をつけていいか分からなくなりますよね。現状の日本のDX偏差値って先進国でも最下層なんです。でも、レベル1の業務効率化をするだけでも、偏差値50くらいになると思うんです。だからこそ、軽い気持ちでトライして、まずは平均点を目指すだけでも全然いいと思うんです。
-長尾さんはどのようにお考えですか?
長尾:DXは広範なテーマですので、いろいろな切り口から取り組む必要がありますし多くのプレーヤーの協働が必要です。それぞれの会社の持ち味を生かして、目の前のやるべきことにしっかりと向き合うのが大事なんでしょうね。顧客ともきちんとコミュニケーションし、コンペティターを含めた他社とも適切なレベル感でゆるやかに連携して、社会全体にとって真の意味で役に立つ基盤をかたちづくる。これからの時代、マインドセット、人の心の在り方というのが、これまで以上にウェイトをしめていくでしょうね。
-長尾さんは高野山で真言密教を学ばれたとお聞きしております。そこから学ばれたこともありますか?
長尾:私は現職以前、約2年ほど高野山にこもってましたが、それは、空海の思想に対する興味が中心で、「学び」ですとか「成長」という高尚なものではありませんでした。ただ、私なりの解釈によりますと、そもそも「密教」というのは、学べば正解が得られると考える「顕教」に対して、真理とは実践を通じて体得するものだと捉えます。正解はどこかに既にあるものではないのだから、頭だけで考えても仕方がない。病気の原因ではなく、治療することこそが大事です。治すことにこそ、もがきながら試行錯誤するのだと。この心構えは、現在必要とされているものではないかと思います。
空海の説くところによりますと、「悟り」に達すると見えるこの世界の真の姿というのは、生命あるものもないものも、すべてがつながり合って互いに出入り自在、溶け合っているかのような霊妙不可思議な関係にあるようです。世界のすみずみまで、究極の真理である「智慧」、あるいは「いのち」が、数限りなく光り輝きながら立体的な網の目みたいに照らし合うネットワークを形作っているイメージです。真のDX化が実装された社会とも非常に近しいイメージに感じ、個人的にも非常に興味深く未来を見ています。
-本日はありがとうございました。
Less/on.
長尾氏・福島氏、それぞれ会社規模も違い、マクロな視点では競合とも呼べる両者が、ゆるやかに意見を交換する姿はこれからの在り方として非常に素晴らしいものだったように思う。
DXの先に描く未来が、少し楽しくなる、そして気軽に一歩が踏み出せるようになる対談だったのではないかと思う。
経理部門のDX・デジタルシフトを学ぶ無料イベント「Less/on.」開催!
2021年9月9日(木)請求業務に纏わるトータルソリューションが一度に把握でき、経理部門をはじめとした間接部門が今押さえておくべき情報、経理DX実現に向けて必要な学びを得ることのできる1日にいたします。 Less/on.でもインタビュー掲載した株式会社インフォマート執行役員 電子インボイス推進協議会(E-Invoice Promotion Association:EIPA)幹事・木村 慎氏も基調講演で参加されます。 オンライン無料イベントなので、皆様ぜひお気軽にご参加ください。
(おわり)