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静かな革命で、日本を再起動する。株式会社JDSC・加藤エルテス聡志氏インタビュー。

「日本をアップグレードする」そんなビジョンを掲げた会社、株式会社JDSC (旧 : 日本データサイエンス研究所)。
JDSCはデータサイエンス・機械学習など最新のテクノロジーを用いて、産業の共通課題を解決するため、リーディングカンパニーとタッグを組むユニークかつ先鋭的な会社だ。起業からわずか約6週間で3億円もの出資が決定したビジネスモデルとは?日本全体が抱える 問題にも果敢に立ち向う姿勢は、非常に胸を打ち、感動させられる。代表の加藤エルテス聡志氏に、今まさに革命の最中に、私たちの心はどうあるべきか、そして良識やルールで縛られる日本はどのように未来を描くべきなのかをお聞きした。

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加藤エルテス聡志:東京大学卒業。株式会社JDSC代表取締役。P&G、コンサルティングファーム(McKinsey & Company)・米系製薬会社等を経て、2013年に(社)日本データサイエンス研究所 (現 JDSC)を設立。代表に就任。
著書 ・・・『機械脳の時代』(ダイヤモンド社)、『日本製造業の戦略』(ダイヤモンド社・共著)、編集協力に『日本の未来について話そう』(小学館)、『Reimagining Japan』 (VIZ Media LLC)、『プログラミングは、ロボットから始めよう!』(小学館)など。
講演・・・ビジネスブレイクスルー大学「問題解決力トレーニングプログラム」(監修:大前研一) 講師、TEDxTokyo Salon "データサイエンスと教育の未来"、公正取引委員会『AIと企業間競争』など。

起業に至るまで。

-JDSCは非常にユニークな会社ですが、加藤さんがこの会社に至るまでをお聞かせください。

加藤:元々は、マッキンゼー・アンド・カンパニーでコンサルティング業務を担当していました。ごく簡単に言いますとCEOアジェンダを今後10年見据えてシェイプしていく業務です。そのあとに米系製薬会社に入社し、デジタル戦略部署を新規立ち上げし、統括販売部の部長も兼任しました。

-米系製薬会社のデジタル組織では、実際どのような業務をご担当されていたんですか?

加藤:MR(医薬情報担当者)の生産性向上や、新製品の上市、M&Aや買収後統合、レガシーシステムを現場とも協業して刷新していくポジションでしたね。その際に、各製薬会社や医療機関がばらばらのデジタル取り組みをしていることに産業課題を感じました

-その後に、JDSCで起業されたんですね!

加藤:えぇ。マッキンゼーでCEOがどのような視点で企業を運営し、製薬会社では企業のITシステムの担当者の悩みや制約条件、そしてそういった条件の中でシステム・ソフトウェアがどのように解決までの道を描けるのかという、企業課題の解決方法を学ぶことができましたね。

-かなり華々しいキャリアにも思いますが、もともと起業を夢にキャリアを積み上げたんですか?

加藤:ある程度意識していましたが、今考えてみると全然具体的でなかったですね(笑)。その時に感じたことを、一番適した組織で実現しようと考えた結果が今ですね。

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JDSCは産業にインパクトをもたらす会社。

-JDSCは、どのようなビジネスモデルの会社なんですか?

加藤:例えば、私が在籍したマッキンゼーの場合、コンサルティングといった業務はひとつの企業を相手にしますよね。つまり、現状のビジネスの中でいかに競合との争いに勝つかというビジネスモデルの構築がミッションな訳です。ですが、JDSCは人工知能やデータサイエンスを元に”産業全体に”インパクトを出す会社です。つまりは、JDSCは産業全体がクライアントと言えます。産業全体が協調すべき領域にアルゴリズム提供を含めたサービスを提供する。これによって、産業全体、ひいては日本全体をアップグレードしていきたいなと思っています。

-産業全体?

加藤:例えば、JDSCのクライアントで佐川急便さんがいらっしゃいます。佐川急便さんでは、CO2排出量の削減や、不在配達の解消、高齢者ドライバーが増える中での対応というような課題を抱えていますよね。でもそれは、ヤマトさんや日本郵便さんも全く同じです。つまり同じ配送業という「産業全体」で抱える課題でもありますよね。
ちなみに不在配達は、佐川急便さん、ヤマトさん、日本郵便さんの3社だけでも年間約8億回もの不在配達されています。大きな産業共通の問題です。

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-8億回!

加藤:そこで、JDSCは、佐川急便さんのような業界トップランナーと並走しつつ、業界全体でのロスをなくすために、その業界の全社が使えるアルゴリズム・システムを開発します。例えば、交通情報や留守のパターン情報、許諾を受けた上で電気メーターのデータから在・不在の予測をし、最適なルーティングを表示するというようなシステムです。これはすでに不在配達を大きく減らせることが実証できています。

-1社なら分かるんですが、産業全体となると競合関係もありますし、なかなか難しそうですね。

加藤:一般的にはそう思われがちですよね。ですが各社産業、特にインフラに関わる企業の代表の方々は、そういった業界全体の協調必要性に対する意識は高いんです。日常的に投資家からSDGsについて質問されることも多いですし、産業全体のモデルを解決することが、結果的に自分たちの利益になることも理解されています。私たちは、「堤防」という例を使って説明しています。村の堤防を作るのは、村人1人1人がの仕事ではなく、村人全員が協力して作るものでしょう。村全体の公共性のある仕事ですからね。堤防ができてこそ、その中で安心して各々が暮らせるわけですから。協調領域がしてこそ、安心して競争できるんです。

-すごくわかりやすいですね。

加藤:特に私たちが扱っているアルゴリズムといった分野は、データが多いほど結果の精度があがります。だから、佐川急便さんだけでなく、日本郵便さん・ヤマト運輸さん…競合と呼ばれるような会社同士を横断することで、より優れたアルゴリズムになります。これが、私たちJDSCのクライアントは1社ではなく、産業全体なんだと表現した所以です。

-なるほど!

加藤:日本は、どんどん就労人口も減っていますよね。考えてみてください。これだけ人が少なくなった日本という国で、ひとつの産業全体に対する共通の解決策への重複投資で無駄を出すべきではない。協調領域を業界全体で考えることで、業界全体の様々なロスをなくしていけます。


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日本の問題を企業から考える。

-産業全体における問題解決とお聞きすると、どうも国策に近い印象を受けます。

加藤:実際、国策として同じようなことを実施している諸外国もあります。日本はも、国家主導で1950年は綿花、60年代は鉄鋼、カラーTV、自動車…というように、約10年単位でフォーカスして投資する産業を変え、一気に産業課題の解決と経済成長を実現してきました。ただ、ここ20~30年で行政ができることに制約が増えてきた。国民とコンセンサスが取りづらい状態も散見しています。本来政府が扱ってきた産業課題というトピックについて、私たちはあくまで民間の企業という立場から、課題解決ができるのではないかと思っています。

-なるほど。

加藤:JDSCは、アカデミアと組むことで、きちんと学問的な裏付けのある方法論で民間から課題解決することを考えています。東京大学の各研究室との連携はJDSCの特徴の1つです。機械学習・人工知能領域で高い評価を持つ東京大学の各研究室との連携が評価され、東京大学エッジキャピタルからの出資が実現しました。起業から出資が決定したまでたった6週間でまだ実績が不十分ながら、産業全体から国家全体のアップグレードを考えるという、パブリックな視点を評価いただいたと思っています。

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-ただ、実際のところ、そういった国家規模のお話しであるとか、SDGsの直接的に利益を産みづらいこと・ものって民間のビジネスとしては、かなり難しいですよね。

加藤:先ほどの配送の話ですと、業界全体で毎年数千億円もの損失があるんです。それを解消することは、先方のビジネスとしても直接的に利益を生み出すことですし、SDGs的な観点からも解決策になっていますよね。こういった利益にもなるポイントを見つけるというのが、私たちの課題でありチャレンジですね。

-確かに利益だけでなく、CO2削減もされますし、SDGs的にも意味がありますし、すごく面白いビジネスモデルですね。

加藤:私も、最近アメリカ・ヨーロッパの機関投資家とお話することも多いですが、第一声は「SDGsへの貢献」について聞かれます。こうした、産業構造から考えることで、青臭い理想だけのSDGsではなく、ビジネスインパクトを伴った、持続性のあるSDGビジネスを実現することができるのではないか思っています。

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真のDXはカイゼンではなく改革。

-DXって、色々な企業…それこそ日本全体の課題だと言えると思うんですけど、どうお考えですか?

加藤:様々なレベル感で「DX」と呼ばれていますが、どうも日本だとデジタライゼーションのことを指していることが少なくないように思います。ベンダーのツール購入ですとか、リアルなものをデジタルに移行しよう、ハンコをデジタル化しよう…こういうのは「デジタライゼーション」もしくは「オペレーションインプルーブメント」でしかなく、トランスフォーメーションではない。本来の「DX」って全然違うと考えているんです。

-加藤さんの考えるDXってどういうことなんですか?

加藤:DXってなんだというと、X=トランスフォーメーションの略語である以上、今までのビジネスモデルが劇的に変わっている必要があるでしょう。カイゼンではなく、改革だ、ということです。会社の提供価値、ビジネスモデル、業界の競争環境が変わるくらいのインパクトがないものは、DXではありません。通信網も整い、IoTも進み、誰もがスマホを持ち、その中でのエコシステムの進化も進んでいます。いくらでも変革していくデジタル技術の発展の中で、企業が劇的に変わることこそ、DXに呼ぶにふさわしいと考えています。オペレーションの変化ではないことを、少なくともマネジメント層は理解しておくべきでしょう。

-そういう大きな視点から捉えると、DX=日本のアップグレードそのものとも言えるかもしれませんね。

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日本のアップグレードの鍵は「人」。

-JDSCが描く「日本のアップグレード」するまでのロードマップを教えていただけませんか?

加藤:3段階あります。既存のレガシー企業の中で、DX成功事例のヒーローを作ることというのが、現在取り組んでいる第一段階です。

-ヒーローを作る?

加藤:はい。各産業におけるトップ企業が様々な障壁を超えて、本来の意味のDXを成立させることです。各産業のトップ企業がどのようにDXを成功するかで、各業界ごとの基準、成功モデルを作ることで、業界全体にインパクトをもたらすことが、今、私たちがなすべきことですね。

-業界をリードする企業をまず作るということですね。

加藤:その上で、自社もそのヒーローの成功事例に感化され、追随したいと考える企業も協調領域への参画を促し、業界全体に利益を生むモデルを強化する。フロントランナーだけでなく、業界全体に利益を生む構造にするためエコシステムを構築する。これが第2段階です。

-業界ごとの成長を支援すると。

加藤:そして最後は、JDSCを巣立った社員が、各産業で真のDXを牽引するリーダーになっていく。これが第3段階です。

-システム構築の果てに人材に行き着くのは面白いですね。

加藤:弊社に在籍しているメンバーを見ても、マッキンゼー、P&G、アクセンチュア、リクルート…こういった優れた人材を排出する企業のOG/OBのコミュニティの相互支援の文化は独特です。損得勘定でなく、社会を変えたいと思う人を助けるためのコミュニティがあるんですね。こうした企業のOB/OGの活躍が大きく取り沙汰されますが、そこにはスチュワートシップ・徒弟制度のインフラが存在しています。私が好きな言葉で「Business is a game of people.」というものがあるんです。ビジネスを超えて産業全体を考えるとき、人への帰結は当然とも言えると思います。

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これからの人の役割とは?

-「人のため」というお話しがでましたが、これから技術が増々進化する中で、加藤さんはこれからの働く人々は何を考え、どう行動するべきだとお考えですか?

加藤:今の技術の延長で、人の知能を全て代替するシステムの設計は難しいと思っています。よく言われるシンギュラリティは、まだ恐れる段階ではないと思うんですね。ただ、人の全知能を代替する人工知能がなくてもジョブ移転は起こりますし、また、今後寿命が延びることで定年も延長され働く期間も伸びる。年代に甘んじることなく、情報をキャッチアップしていくことが大事だと思いますよ。

-なるほど。

加藤:もちろん、産業のすべてが急速に変化するとは思いません。ただ、GDPに占める企業の教育投資率を見ると、日本は相当低い。最低水準と思っていただいていいと思います。2倍以上の教育費を賭けても、まだ先進国の水準に足りないくらいです。社員の皆様も、自分が学べる、成長できる場所に身を置くことを真剣に考えるべきだと思います。目先の年収やかりそめの安定ではなく、生涯を考えて、自己投資するべきです。

-人工知能の技術伸長が著しい中で、どういった領域が人に残されていくでしょうか?

加藤:良く言われますけど、いわゆるイマジネーション&クリエーション、想像と創造です。これは機械学習を用いたアルゴリズムで代替することが難しい。設計が非常に難しすぎて、どこから手をつけていいかわからないようなテーマです。10年後のことを想像してみること、今まだ見えない未来のことを描くという仕事は、システムで代替される可能性が低いものです。ですから、学びを続けて、機械ができないことを先回りして考え、自分自身がどのようなポジションでどのような仕事をしていくか、考えて振舞っていくことが望まれると思います。

-なかなか難しいですよね。

加藤:日本には苦手な方も多いと思います。日本の教育の重点は画一化、無謬性にあります。自分で考え、変わっていくようなトレーニングは学校では受けませんでしたよね。言うことを聞く人材を目指した画一的な教育を受けてきたはずです。まずは、そういう教育バイアスがかかっていることを自覚することから、スタートするといいかもしれませんね。

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世界から見た日本、どう見える?

-世界から見ると日本はどのような国だと思われますか?

加藤:広い質問なので、企業という文脈だけでいえば、日本企業は個別に見ると業績・利益はあがっているものはあっても、全体としての経済成長率や資本効率は決して高くありません。コロナ禍での政府対応でも露呈してしまいましたが、官民ともにパソコン・インターネットなどのデジタル技術から置いていかれています。世界最高の高齢化率という人口動態から見ても、残念ですが今の日本は世界から見ると衰退期に入った国と捉えられていると思います。

-国内はどう捉えてらっしゃいますか?

加藤:国家としては、社会保障費が大きすぎて政府としての戦略投資も見込めないと思っています。政府を頼れない以上、私も含めて、自分たちでなんとかするしかない状況ですよね。国家に頼った産業成長戦略では、数十年後には世界から置いていかれているでしょう。韓国企業が早くからそうしていたように、日本企業も世界マーケットを視野に入れざるを得ない状況ではないでしょうか。

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-少し、暗い気持ちになりますが、日本に希望はありますか?

加藤:衰退しているとはいえ、日本はGDP世界3位の国家ですし、それなりのサイズのある市場です。法規制等が強くイノベーションが阻害される構造が温存されていることや、グローバル展開が遅れがちな半面、GAFAのようなグローバルプレーヤーと戦わなくても済むという側面がありますこのある種守られた地場で、社会課題解決のシステムを創り出せれば、世界全体にも展開することができる。特に高齢者問題においては、日本が解決策を世界に先駆けて実証することで、世界の救いにもなりますよね。

-そうか、ネガティブな問題こそ、解決した時に世界規模でインパクトをもたらせる。日本を使って色々とテストしていくということですね。

加藤:えぇ。そして、「日本中心に国際化する」のではなく、「グローバル全体で考えていく」といいと思いますね。国籍や性別を超え、多様に働くのが当然であるという未来予想を心から信じ、描いていくことができたらいいですよね。

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DX社会実現のために私たちに必要なこと。

-最後の質問ですが、DX実現のために私たちが学ばなければいけないことはなんでしょうか?

加藤:「危機感」だと思うんですよね。20年前まで、オンラインの本屋でしかなかったAmazonは今や、私たちの日常に欠かせないものになりました。それこそ、ヘアサロンまでオープンしたわけで、すでに業界という垣根すらなくなっています。私たちは、この変化・速度がもたらすインパクトにもっと危機感を持つべきだと思うんです。
Adobeの国際調査によると、実は日本人のクリエイティビティは世界で高く評価されています。意外ですよね。本当はできるはずなんですけど、どうも腰をあげるまでが大変なのかなと思います。
なので、日本を起動するのは危機感がキーだと思っています。

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Less/on.

とても、柔らかく静かなトーンで話される加藤氏の話は、ネガティブでもポジティブでもなく、冷静に今を見つめていたように思う。そんな落ち着いた人柄でありながら、国策に変わりうるほど大胆にビジネスを展開し、私たちの希望を語る姿は、とても印象的だった。

私たちがどう描くかで、未来は確実に変わっていくはずだ。

経理部門のDX・デジタルシフトを学ぶ無料イベント「Less/on.」開催!

2021年9月9日(木)請求業務に纏わるトータルソリューションが一度に把握でき、経理部門をはじめとした間接部門が今押さえておくべき情報、経理DX実現に向けて必要な学びを得ることのできる1日にいたします。
Less/on.でもインタビュー掲載した株式会社インフォマート執行役員
電子インボイス推進協議会(E-Invoice Promotion Association:EIPA)幹事・木村 慎氏も基調講演で参加されます。
オンライン無料イベントなので、皆様ぜひお気軽にご参加ください。

(おわり)

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