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データが導く新世界。未来は僕らの手の中。日本オラクル 常務執行役員 竹爪慎治氏

日本オラクルは、2019年6月「デジタルトランスフォーメーション推進室」(以下DX推進室)を設け、パンデミックが本格化する直前の2020年2月「あらゆる企業でDXを加速化する準備が整った」と言う。マイクロソフトに次いで世界2位のソフトウェア会社であるオラクルは、今何を考え、どこに向かっているのか。「DX推進室」を設立・牽引してきた常務執行役員 竹爪慎治氏に、お話を伺った。

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〈プロフィール〉竹爪慎治:日本オラクル株式会社 常務執行役員/テクノロジー事業戦略統括

オラクルが提唱するハイブリッドクラウド。

-オラクルは、名前を聞いたことはあっても、どういった企業なのか理解しづらいイメージがあります。実際どのような企業と捉えたらいいですか?

竹爪:難しいですね(笑)。簡潔に言うならば、「あなたの大切な情報をきちんと管理するための会社」ですね。顧客データ・財務データ・売上など企業のデータを安全に格納し、使うときだけ安全に取り出せます。オラクルは元々、CIAのプロジェクトの一環として、国家間で漏洩してはならない機密情報を守るために開発されたデータベースが起源です。ですので、安全性は、世界最高峰と言えるのではないかと思います。

-データベースやデータ管理の必要性は、企業…特に中小企業では浸透していない印象があります。

竹爪:未だに企業によってはローカルのエクセルや、アクセスでデータ管理していたりしますよね。事業規模が小さいうちはそれでも成立しますが、規模が大きくなるとデータが漏洩したことがクリティカルなダメージになり得る。それを未然に防ぐためのデータベースをインフラとして構築しておくのは必要なことだと思います。

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-実際にそういった厳重なデータですと、莫大な費用をかけて、物理的データベースを活用したオンプレミスで構築するイメージがあります。

竹爪:そのイメージは、ある意味では正しいです。オラクルの仕事の大半は公共、金融機関、あるいはエンタープライズと呼ばれる企業の大きなプロジェクトです。これまでは、そういったプロジェクトを安全に進めるためには、オンプレミスでのデータベース構築しか選択肢がなく、費用も莫大にかかっていたんですが、クラウドによってパラダイムシフトが起きたんです。正確に言うと、クラウドの安全性が向上し、オンプレミス以外の選択肢を提供できるようになった。企業の規模に応じて、費用を抑えてデータ管理できるようになったんですね。アメリカでのクラウドデータベースの利用率はオンプレミスを超えました。日本は、まだ8:2くらいでオンプレミスを選ばれる顧客も多いんですよね。

-それは何故なんですか?

竹爪:サーバー内で、きちんと管理する場所を区切り、技術的に100%に近い形で安全に保管したとしても、精神的には落ち着かないんでしょうね。特に競合とは、保管場所を気持ち的に分けておきたいというのは、理解もできます。それから、金融関係など、現在オンプレミスで動いていて、簡単には移行できないレガシーシステムが動いている企業も多い。オラクルは、そういった日本の状況を鑑みて、オンプレミスとクラウド、両方を活用する「ハイブリッドクラウド」を提唱しています。これでしたら、かなり現実的にDXを推進していくことができると思います。

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DX推進室創設まで。

-そんな中、DX推進室をスタートさせましたが、どのような経緯で取り組むことになったんですか?

竹爪:まず、従来のオラクルは、データベースを活用した業務効率化のご相談が主でした。結果的に人件費・管理費の削減に繋がり、企業からも満足いただけていました。このビジネスモデルを「守りのDX」と呼んでいます。この守りのDX構築ですと、クライアント内でも、システム寄りの情報管理部などとの専門的なやりとりが多かった。

-縁の下の力持ちというイメージですね。

竹爪:そうです。この守りのDXを徹底的に構築した先に、削減した予算で何をするか、何をしようか?という相談が増えて来たんです。この相談に応えるには、クライアントの経営層だったり事業部門と密に話して、未来に向けた取り組みをしないといけない。この未来への取り組みを「攻めのDX」と呼んでいます。この取り組みは企業としての投資の側面が強いため、私たちが対峙するお客様も経営層に代わり、求められる比重が守りから攻めに変化したんです。

-従来のオラクルからすると、かなり大きな変化ですね。

竹爪:えぇ。この「攻めのDX」へと事業変革するためにも「DX推進室」を立ち上げたんです。おっしゃる通り、今までのオラクルからしたら、大きな変化ですし、独創的な部隊と言えるんですよね。攻めのDXには、クライアントはもちろん、私たちも確固たる正解というのはないんですね。未来に向けて何を構築すべきなのか、多くの方と知恵を集めて取り組むことが肝要だと思っています。

-そもそもなんですけど、竹爪さんの考えるDXって明確な定義があるんですか?

竹爪:プロジェクトごとに変わるので、明確な定義はないと思います。1つ言えるとしたら、今現在の日本におけるDXは、レガシーシステムをモダナイズするフェーズだと捉えるべきかなと。1つ1つの企業内には素晴らしいデータが蓄積しているんですけど、今はきちんと使える状態になっていないケースが多い。それをクラウドを活用してモダナイズし、安全かつ柔軟に使える状態にします。そこれこそ私たちの考えるDX推進の第一歩だと捉えています。

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企業間を繋ぐため、データのモダナイゼーションを推進。

-実際にモダナイズするとどうなるんですか?

竹爪:「MaaS(Mobility as a Service)」を参考に話すとわかりやすいかもしれません。MaaSを実現しようとすると、まずは自動車メーカーがありますよね。そして車をネットワークに繋げるため、通信会社も必要です。走らせるための地理情報や、不動産情報などとの連携も必要となります。そういった企業間をつなげるのは何かと言うと、ネットワークでなく、広義のデータなのではないかと言うことなんです。

-そうか…そういう風にデータを繋ぐ必要がどんどん増えてくるんですね。

竹爪:そうです。だからこそ、モダナイズしてデータを使えるようにすることから始めるんです。MaaSのような企業間を横断するプロジェクトって、データやテクノロジーが核となって推進するしかないんですよ。各企業が抱えるデータの中から、必要なデータだけを安全に開示・共有するのは、オラクルの得意なデータマネジメントの分野ですからね。こういった未来を描くためにもデータを守るだけでなく、安全に取り出して活用、すなわちデータドリブンを実現させていく。これが「DX推進室」ミッションのひとつです。

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-裏方であり、ハブであり、プロジェクト中核を担う…裏方的なオラクルから大きく舵を切っていますね。

竹爪:新規ビジネスが立ち上がる時に、企業規模や業界の垣根を超えてプロジェクトが進行することが増えています。規模や業界の垣根を越えて企業がコンソーシアム的に集うのがすでに当たり前になりつつあります。そういった際のマッチングも望まれることも増えています。データ・テクノロジーをベースにすると、企業がフラットに繋がっていける。そうすると、オラクルがハブになって、ある種のコミュニティとしてプロジェクトを創造できると思うんです。

-あぁデータの前では、企業が平等というのは素晴らしいですね。

竹爪:そうですよね。これは、エンタープライズ企業だけの話ではないんです。スタートアップや中小企業にとってのチャンスでもあるんです。

-確かに独自のデータを持っていたりすると、連携せざるを得ませんもんね。企業の規模に関わらず、チャンスともいえますね。

竹爪:データベースを中心としたベンチャーファンドのようなイメージですね。パラダイムシフトが激しい現代では、例えばスタートアップや中小企業が、数年でエンタープライズへと成長することは珍しくない。そこに至るまでの技術やノウハウなどを提供するのも、「DX推進室」のミッションです。

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Be a TRUSTED TECHNOLOGY ADVISOR.

-DX推進室の業務…「攻めのDX」のお話を聞いていると、システムやデータを構築するだけでなく、人的なリソースこそがキーなのかなと思います。

竹爪:それは、すごく的を射ていると思いますね。2020年12月に日本オラクルの社長に就任した三澤智光が新たなビジョンとして「Be a TRUSTED TECHNOLOGY ADVISOR(信頼できるテクノロジーアドバイザーになる)」を掲げました。今までは技術提供が主でしたが、テクノロジーの先にある未来にはまだ正解がない。不確定な未来に立ち向かうには、人間同士の信頼がベースとなって新しい世界を創造することが何よりも大事だと思います。では、信頼ってどこで生まれるかというと「安全性」の上にしか成立しない

-それこそ「守りのDX」を続けて来たオラクルの強みですね。

竹爪:そうですね。守りながらもクリエイティブに攻める。これは、ビジネスだけの話ではないのです。現在の世の中の構造を変えるには、テクノロジーから考えるべきではないかと思うんです。アメリカなどは顕著ですが、テクノロジーカンパニーが世の中の構造やインダストリーを変えたニュースは多いですよね。そういうものこそ我々が支援すべきですし、積極的に「この技術を使って、こういう世界を描けるんじゃないですか?」と話していくべきなんですよね。

-すごく壮大ですが、安心が担保されてこそ描ける世界ですね。アメリカの話が出ましたが、日本の未来についてはどう思われていますか?

竹爪:日本人は、目標をきっちり決めて、ひとつずつ積み上げるという業務に関しては、世界的に見ても最高水準だと思います。色々な問題は散見されますが、多少リスキーでも未来に向けてきちんと目標設定してあげれば、まだまだ成長できると捉えていますよ。オラクルというグローバルな企業から見ても、成功するまで継続的にトライする、チームで協力しあうという点は日本の凄いところです。

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手を取り合い、少しずつ未来へ。

-企業でのDXが進んだとして、私たちの生活はどんな風に変化するとお考えですか?

竹爪:DXだったり、データドリブンというと、どうも「数値化すること」「単純化すること」と考えている方も多いと思うのですが、全く逆だと考えています。多様な個人が普段何気なく見たり、聞いたり、感じたりしていることだって、データなんですね。そういった今までは、誰かと共有しずらかった感覚を共有するための1つの手段だと捉えた方が正しいのではないかと。一般に暮らす私たちの暮らしや人生がより充実するために機能するべきだと思うんです。

-素敵な考え方ですね。

竹爪:オラクル創業者ラリー・エリソンは、ハワイのラナイ島の大半を購入し「土地と島の天然資源を保護管理しつつサスティナブルな島を目指す」という面白いプロジェクトをしています。ラナイ島に元々住んでいた原住民の暮らしや自然環境はそのままに、データやエコシステムなど最新のテクノロジーを使ってよりハッピーな環境を創生するというものです。

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-ある意味ではトヨタのWoven Cityのようなゼロベースの街づくりとも近いですが、現在の社会と地続きな現実的で素晴らしい試みですね。

竹爪:最近ですと、実際に企業と触れ合っていても収益ベースの資本主義的な発想は薄れつつあります何をやるにしても、コンソーシアム型で…うまく手を取り合って、より良くしようという意識の人や会社が増えてきている。プロジェクトによっては、競合同士であっても必要なデータを共有し、きちんと手を取り合えるという、ちょっと前だったら考えられないようなことが起きています。近年、5GやIoTなども含めて、ネットワークインフラというのが、ようやく整ってきたことと、意識の変化は相関関係にあります。整ったインフラ上で、さぁ何をやろう?どうしよう?と、みんなが知恵を出し合い、力を合わせ始めている。今までサーバー内やシステム内で、電子的なデータやイメージとしてのみ繋がっていた世界を、現実社会にどう反映・実装させていくか。これを描くのがDXの本流ではないかと思ってます。

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DX社会実現のために私たちに必要なこと。

-最後の質問ですが、DX実現のために私たちが考えなければいけないこと・学ばなければいけないことはなんでしょうか?

竹爪:日本においては、コミットメントと柔軟性につきると思います。流行でDXを初めても、経営層も含めたコミットメントがないと、PoCのまま終わってしまうことが多いんですね。だからこそ、未来に向けて覚悟を決めてコミットすること。そして、刻一刻と変化する環境に柔軟に対応していくことがとても大事だと思うんです。あるレポートによるとDXに取り組めている日本企業はまだ5%くらいだったと思います。日本のDXをサポートすることで、真に豊かな社会になったらいいなと思います。

Less/on.

創業以来、守りを徹底してきたオラクルが取り組む「攻めのDX」いかがだったろうか?。竹爪氏の語るDXは、私たちの社会、より良くなるという自信と希望に満ちている。圧倒的に現実的なのにどこか、夢物語を聞いているような気分にもなる。「手を取り合って」というような、ある種子供染みた言葉が、データとテクノロジーに裏付けされると、これほどまでに胸に響き、わくわくするなんて!

最新のテクノロジーと膨大なデータを扱うオラクルに見える未来が、ポジティブなものであるのなら、これは私たちにとっても希望であると感じた。

経理部門のDX・デジタルシフトを学ぶ無料イベント「Less/on.」開催!

2021年9月9日(木)請求業務に纏わるトータルソリューションが一度に把握でき、経理部門をはじめとした間接部門が今押さえておくべき情報、経理DX実現に向けて必要な学びを得ることのできる1日にいたします。
Less/on.でもインタビュー掲載した株式会社インフォマート執行役員
電子インボイス推進協議会(E-Invoice Promotion Association:EIPA)幹事・木村 慎氏も基調講演で参加されます。
オンライン無料イベントなので、皆様ぜひお気軽にご参加ください。

(おわり)

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